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天王山 ー第2節ー
 学園ドラマにでもでてきそうな土手がどこまでも続く、穏やかな景色を背景に、今回の戦いの場所は存在していた。
土曜日の午後の平穏を彩る環境の中、この場所だけは、一種別の空気が支配していた。
東京都4部リーグ全勝同士の試合、つまりは、天王山とも呼ぶべき試合が、今まさに行われようとしていたのであった。
 コイントスの行方を見守る選手たちの列が、緊張感をたぎらせ、これから始まる戦いへの重要性を高めていく。おそらくこの戦いに勝った方が、このリーグの主導権を握るであろう事は明らかで、皆もそれを解っていた。時間を静止させ、白か黒かの判断を背負い、ゆっくりと着地をしたコインが静寂を切り裂き、試合の火ぶたは切って落とされた。
相手の力は?どう出てくる? 序盤は探り合いから始まった。一身一体の中で、どちらも流れをつかめずに試合はこう着状態を続けた。こういった試合は流れをつかんだ方に有利に試合が展開していくもので、勝負においてこの流れというのは非常に重要度を占める。どちらが先に、流れを引き寄せるためのきっかけを見つけだすか、そんな時間の中、流れを左右する出来事が起こった。    
 東京ベイの右サイドの選手が駆け上がり、センタリングを上げた。しかし相手長身ディフェンダーの頭にはじかれ、ボールが力なく空に舞いあっがた。
視線がボールに集まり、落下地点をめがけて選手が詰め寄っていく。しかし、誰よりも速く、1人の選手がそのボールに近付いていた。ボールが落下するよりも速く振り抜いた足から放たれたボールは、選手同士が飽和状態となったペナルティーエリアをすり抜け、最後の砦のゴールキーパーの手をもかわしゴールへと吸い込まれた。
 両チームにとって喉から手の出ほど欲しかった1点が、東京ベイに入った。
しかもそのゴールは、もう一つの副産物をチームに運び込んだ。それは勝負をも左右する「流れ」だった。その主人公となった選手は、チームの中でも、いわゆる穴と呼ばれる選手で、まず誰もその選手がゴールを決めるとは思っていなかった。だからこそ、その「流れ」は強大で、天王山という雰囲気や緊張すらも飲み込むものとなり、東京ベイの力となった。その後2点3点と立て続けに入っていき、東京ベイの4点リードで前半を折り返したのであった。
 後半も「流れ」は変わる事なく、東京ベイのペースで試合が進んでいった。相手の中盤でのパスを前でカットし、相手ディフェンス陣の裏へボールを蹴り、相手ディフェンダーに対し常に背中を向けてプレーをさせる状況をつくることで、相手の体力を奪い、ミスを逃さずにゴールに迫った。この戦術の大きな利点は、相手にリスクを与え、こちらのリスクを最小限に減らして、ゴールを狙えるというところにある。自陣ゴールの近くでミスを犯せば失点の可能性は高くなし、相手に背を向けさせてプレーさせれば(自陣ゴールの方を向かせる)、ミスも増え失点をする可能性も高くなる。(W杯予選の日本対バーレーン戦での、バーレーン選手のオウンゴールも、相手に背を向けてプレーさせたことで生まれた)こうして、リスクを確実に管理した東京ベイが2点を追加し、6ー0という結果で、天王山と目された試合が終了した。
 試合をとおして常に「流れは」東京ベイに味方していた。もしかしたら、あの1点が入ったところで、この試合のシナリオは決まっていたのかもしれない。
 試合後、喜びの輪の中心に、あの選手がいた。

                            記事:sun.
by tokyobay-soccer | 2005-05-30 03:51 | 試合内容
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